2019.10.27
経済・ビジネス

【現地調査】中国版ウーバー「DiDi」のドライバーが語る 成長の理由とその裏に隠れた問題点

(写真=Wealth Lounge編集部)
(写真=Wealth Lounge編集部)
自動配車アプリの先進国、中国。その市場を牽引してきたのが最大手のDidi Chuxing(滴滴出行、以下「DiDi」)です。今回、実際にDiDiに登録しているドライバーや配車サービスを展開している経営者らを北京で現地取材。成長の理由とその裏に隠れた問題点を洗い出します。

DiDiが成功した理由:初乗り運賃を還元するキャンペーンで利用者急増

北京に本社を置くDiDiは2016年に最大のライバルだったウーバーテクノロジーズの中国事業の買収、シェア拡大を図るキャンペーンの実施などにより、中国市場における自動配車アプリの覇権を握りました。サービス利用者は約5億5,000万人、登録運転手は約3,100万人といわれています。

DiDiは成長の過程でどのようなキャンペーンを仕掛けたのでしょうか? 北京で観光客向けの配車サービスを経営する王さんは次のように解説します。

「北京のタクシーは初乗りの3㎞で13元(約196.3円)です。DiDiは初期の頃、13元のうち12元を利用者にキャッシュバックするという大胆なキャンペーンを行いました。これで一気にシェアを拡大しました。はじめは同様のサービスを展開する企業(ウーバーなど)が複数社あったのですが、気づいたころにはDiDiだけになっていましたね」
※1元=15.1円で計算(以下同)

DiDiのビジネスモデル:タクシー業者を取り込みながら個人ドライバーで利益を得る

DiDiのビジネスモデルを語る上で重要なことは、配車される車には、「個人ドライバー」と「タクシー業者」の2種類があることです。

このうち、DiDiの主な収益源になるのは「個人ドライバー」からの運賃手数料です。DiDiに登録するドライバーの張さんによると「DiDiが個人ドライバーから受け取る手数料は運賃の27%」とのこと。仮に、利用者の支払う運賃が100元なら運転手に73元、DiDiに27元が配分されます。個人ドライバーはDiDiなしでは収益をあげることが難しいので、サービスを利用する代わりに手数料をDiDiに支払う仕組みです。

一方、「タクシー業者」はDiDiに対して手数料を支払いません。利用者が支払った運賃はすべてタクシー業者に入ります。つまりタクシー業者は、個人ドライバーと違って無料でDiDiを利用できるということです。手数料が発生しない理由は、タクシー業者はDiDiなしでも通常のタクシーサービスで収益をあげることができるからです。もしタクシー業者が配車のたびに手数料をとられたら、「DiDiを使わずに自力で利用者を獲得した方がいい」ということになり、タクシー業者の登録が激減しかねません。

いずれにしても利用者にとっての費用は運賃のみで、手数料はかかりません。DiDiはタクシー業者からの手数料をゼロにすることで、ドライバーの登録数を増やすことができ、利便性向上や利用者増加を狙えるというわけです。

DiDiの配車サービスは個人ドライバーを優先させている?

しかし、DiDiは個人ドライバーのみから手数料をとれるビジネスモデルのため、タクシー業者の中には、「個人ドライバーに優先して仕事を回しているのでは?」という人もいます。

「いい仕事はタクシーに回ってきません。全部DiDi専門にやっている個人ドライバーに振り分けられます。個人ドライバーの運賃の一部がDiDiの収益になるから、当然そうなりますよね」(タクシー運転手の李さん)

ただ、本当にDiDiが個人ドライバーを優先しているのか、優先しているとしたらどのような仕組みなのかは明らかにされていません。

ちなみに、DiDiの個人ドライバーにはさまざまなタイプがいるようです。たとえば、タクシー運転手から切り換えた人、他に本業を持ち副業でDiDiのドライバーをしている人、レンタカーを利用して本業としてやっている人などです。このドライバーの多様性もDiDiの成長の一因と考えられます。

DiDiの利用ステップ:スマホで迎車・決済・評価などをスピーディーに実行

ここで北京在住の魯さん協力のもと、DiDiの利用手順を確認してみましょう。ちなみに、魯さんは60代前半の男性。「中高年の私もDiDiをスムーズに使えています」とのことでした。

・DiDiの利用手順1
現在地と行き先を入力して、車のカテゴリを選択する。

・DiDiの利用手順2
車種を選ぶとすぐに「車がつかまりました」の表示。このとき運転手の顔写真も表示される。

・DiDiの利用手順3
乗車したときに利用者がはじめにやることは、自分が呼んだ車かどうかの確認。車載タブレッドでチェックできる。
 
乗車したら画面で情報を確認します
乗車したら画面で情報を確認します
・DiDiの利用手順4

走行中は DiDiの地図アプリ通りに走行しているか、車載タブレッドまたはスマホ画面でチェックできる。そのため、遠回りをされる懸念はない。
リアルタイムでナビをしてくれます
リアルタイムでナビをしてくれます
・DiDiの利用手順5
目的地に到着したときの画面。ウィーチャットペイやアリペイなどの電子マネーで決済できる。現金での決済も可能だが利用割合は少ない。DiDiの登録ドライバーの丁さんによると、「現金決裁する人は、旅行者や高齢者など全体の1割程度ではないでしょうか」とのこと。運転手のサービス評価が車載タブレッドまたはスマホでできる。
 
到着後運転手を評価できるページが表示されます
到着後運転手を評価できるページが表示されます

DiDiのサービス向上の取り組み:利用者の評価システムで運転手のマナーが変わった

DiDiの利用者の声を聞くと、サービス拡大と共にドライバーのマナーが向上してきたという感想が多く聞かれます。これについては、評価システムの寄与が大きいようです。具体的にどのような内容なのか、DiDiの個人ドライバーである周さんが次のように解説してくれました。

「高評価を得るには、とにかく細かい注意が必要です。たとえば、クレームをもらわない、時間に遅れない、回り道をしない、礼儀正しくするなど……。私はDiDiに登録したばかりの頃、この評価の重要性を理解していなかったため、100点中50点前後の評価になってしまいました。そのときは、全然仕事が回ってきませんでした。そこから挽回をしてやっと96点になり、仕事がとれるようになりました」

周さんによると、最近になって評価システムの最高得点が100点から120点に引き上げられて、ドライバーたちにはさらに評価を上げる努力が求められているそうです。

北京ではタクシーの台数を規制する方向?

ここまで急成長してきたDiDiですが、2018年後半頃から「頭打ちになっている」「逆風が吹いている」との声が中国国内でささやかれているようです。

北京市民の方々にその実状を聞くと、2018年にはアプリなしでDiDiの空車を見つけるのは難しかったのに、2019年には手を挙げてDiDiの空車を止めることが容易になったと一様に口を揃えます。それだけ空車が目立つようになってきているのです。

空車が増えた理由として北京の人々が指摘するのは、「イメージダウンになる事件があった」「飽和状態になっている」という2点です。前者の事件については、2018年にDiDiのドライバーが利用者を殺害する殺人事件が2件発生。そのときのDiDiの対応に批判の声が集中しました。

後者の飽和状態について、北京で観光客向けの配車サービスを経営する王さんは次のように解説します。

「北京には一般のタクシーは6万台ほどあるのですが、国の政策としてはこれ以上タクシー業者を増やさない方向性のようです。いくら大都市の人口が多いといっても、タクシーサービスのニーズは一定量しかありません。タクシーが増えすぎると、パイの奪いあいでドライバーが苦しむことになってしまいます」

「車を買う権利」の抽選倍率が1,000倍?日本円にして100万円で売買も

タクシーの総量規制への動きに加えて、DiDiの今後の事業拡大に向かい風となりそうなのが、車の所有台数の制限です。中国当局は現在、都市部での公害や渋滞対策として、通行や所有台数に制限をかけています。このことがDiDiの成長を阻害する要因になると考えられているのです。実際ドライバーや利用者からは、都市部の慢性的な渋滞で DiDiやタクシーが利用しにくいという声はよく聞かれます。

こうした都市部の渋滞緩和策として採用されているのが「車のナンバーによる制限」です。これは、営業車はもとより自家用車も対象にするもので、当初はナンバーの末尾で走ってよい日・走れない日が決められていました。たとえば、偶数ナンバーの車が走れる日は奇数ナンバーの車が走れないといった具合です。しかし、この規制をくぐりぬけるため、多くの人が偶数ナンバーと奇数ナンバーの車を同時に所有し、規制が有名無実化しました。

これを受けて近年開始されたのが「車を購入する権利は一人一台」というルールです。合わせて、「車を買える人数そのものを制限する抽選制」を実施。月に1回行われる抽選で当たらなければ、新しい車を購入できなくなりました。

「この車を購入する権利の当選確率はかなり低いです。普通車だと1,000倍くらいの確率と聞きます。EV車だと少しましで、それでも200倍は下らないとか。私の友人は家族4人で5年間抽選してきたけどまだ当たっていません。ちなみに、この車購入の権利は都市によっては売買されています。たとえば、上海では6万~7万元(日本円で約100万円)と聞きます。びっくりですよね。車一台買えそうな値段です」(王さん)

「ちなみに前出のナンバープレート規制も一人一台制が導入されてから新しい形で実施されています。ナンバープレートの末尾の数字によって5つのグループをつくり、そのうち1つのグループの走行を曜日ごとに禁止するルールになっています(下図参照)」と王さんは言います。
 
禁止曜日 土日
ナンバー末尾 1,5 2,6 3,4 8,9 7,0 すべての車が走行可
※上記は一例です。ナンバーごとの禁止曜日は季節ごとに変わります。

以上のように、タクシーの総量規制への動き、ナンバープレート規制による車の走行可能日制限、車の所有台数の制限など、DiDiをはじめとした配車サービスやタクシー業界を取り巻く環境は厳しいものとなりつつあります。

DiDiの登録ドライバーの評価:肯定派「空車率が下がった」、否定派「競争相手が増えただけ」

こうした状況下、登録ドライバーたちにDiDiの評価を聞くと、肯定派・否定派に完全に割れました(いずれも個人タクシーの運転手ではなく、タクシー業者に所属する運転手)。

肯定派の劉さんの意見は、「ドライバーが利用者を選べる仕組みが素晴らしい」というものです。DiDiは利用者がドライバーを選べると同時に、ドライバーも利用者を選べます。とくに、「利用者の行き先が事前にわかる仕組み」に大きなメリットがあり、「近距離の利用者を避けて遠距離の利用者中心にすることで、空車率を下げて利益を出せています」と劉さんは言います。

これに対して否定派の李さんからは、「収益があがらないです。昔のほうがよかった。競争相手が増えただけ」という意見が聞かれました。DiDiそのものへの否定というよりも、個人ドライバーに優先して仕事が振り分けられているのでは?という疑念、不満のようです。

また、陳さんのように、競争が激化しているのは「DiDiの問題以前に、やはり交通渋滞が原因だと思います」という方もいます。

「北京ではタクシーに乗る人自体が減ったと感じます。最近は、みんなレンタル自転車に乗っています。車に乗ったら渋滞にはまる確率が高いですからね。ドライバーにとっても渋滞によって仕事が非効率になります。昔はいいときには1日1,000元(約1万5,000円)稼ぐこともありました。今は全然だめです。稼げても600~700元(1万円前後)くらいです。それに加えてタクシー運転手は毎日会社に管理費を支払う義務があります。私の会社の場合は150元(約2,200円)。これは365日支払わないといけないものです。たとえ正月休みで稼働していなくてもです。これにガソリン代や車の維持費なんかもかかります。なんだか割に合いませんね。だからもう自分もタクシー運転手をやめてDiDiの個人タクシーに切り替えようか検討中です。とにかく稼働した分お金がもらえるというのは気が楽ですね」(陳さん)

「自動運転」と「グローバル展開」で新たな成長戦略を描く

過当競争や渋滞……現在の枠組みでは、限界を感じさせるDiDiですが、次なる成長への挑戦もはじまろうとしています。2019年8月、人が一切操作しない完全自動運転のロボタクシーの運行を発表(中国の一部地域)。上海を手はじめに数年以内に国内3都市での運行を目指しています。

合わせて、中国市場をドル箱にしつつ、その資金をもとにグローバル展開を目指すDiDi。日本市場もそのうちのひとつです。自動運転とグローバル展開でどこまで拡大できるかに今後注目したいところです。

※本記事でインタビューした方々の名前は仮名です

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