2019.7.5
インタビュー

エコノミスト・崔真淑さんに聞く 米中経済摩擦の展開予測。富裕層はどう資産を守っていくべきか

(写真=Wealth Lounge編集部)
(写真=Wealth Lounge編集部)
米中の貿易摩擦が、連日ニュースで取り上げられています。激化と軟化を繰り返し長期化が心配される中、今後の日本経済にどのような影響が予想されるのでしょうか。エコノミストの崔 真淑(さい ますみ)さんに今後の展開予測をお聞きします。

米中間の摩擦は冷戦時代の米ソ関係に似ている

━━今回の米中間の貿易摩擦は「デジタル覇権争いに端を発する」と見る向きもあります。実際には、どのようなことが原因と考えられるでしょうか。

私自身は、デジタル分野のみが影響しているわけではなく、経済全体にかかわる争いだと認識しています。とりわけファーウェイ関連は、一般の方々の関心が高いスマートフォンの話題。そのため、デジタル分野の覇権争いのイメージが強まっているように感じます。

実際には、GDPの大きさ、製造業全体にかかわること、そして話題に上がるデジタル分野など、もっと広い領域での対立が続いているというのが実情でしょう。

たとえると、現在の米中間の関係は冷戦時代の米国とソ連の関係に似ている、と言うと分かりやすいでしょうか。それまで技術的にも劣るとされてきた社会主義の一国が、アメリカよりも先んじて大きな話題となったのが、スプートニク・ショックです。

当時、宇宙開発の分野ではアメリカは自他共に認める開発主導国でした。それが、1957年にソ連の開発したスプートニク1号が人類初の人工衛星として打ち上げ成功を記録。科学技術において社会主義の国に負けるとは考えていなかったアメリカが大敗を喫したことで、米ロ間の宇宙開発競争が激化します。

技術力の差は政治情勢にも影響を与え、経済覇権争いも勃発。キューバ危機にもつながる大きな波紋を引き起こしました。

一方、今回の米中の関係では、これまで「Made In China」として質の劣るとされてきた製造業や情報産業分野で、中国製品の質や技術がアメリカをしのぐ活躍を見せるシーンが目立ってきています。

AI関連の論文の学術誌への掲載数、通信分野においての5Gインフラ投資額、経済学における国内学者同士の協力的な活躍など、これまでアメリカが相手にならないと思っていた国が、急成長を遂げ台頭してきたことによる危機感が背景にあるわけです。

1950年代と現在の違いは、スプートニク・ショックのように確定的な事象が起きていない段階で、トランプ大統領が早めに手を打ったということでしょう。これが貿易摩擦の原因ではないかと考えられます。

━━中国がこれだけ急成長を遂げたのは、どのような要素が背景にあるのでしょうか。

挙げれば複数ありますが、私が注目しているのは「データ量の豊富さ」です。

技術開発において、試験というプロセスはバグの排除やアップデートのために必要不可欠なものです。たとえば、こういったデータが欲しい場合、アメリカで社会実験を行うとしましょう。この際、個人情報保護の観点などからある程度の拘束下で実験が行われます。そのため、使用できるデータにも制限が生まれるでしょう。

一方の中国は、国家主導や協力関係にある企業の実施であれば、ある程度自由に大規模な実験を行うことができます。大量のデータを集め、それを自由に扱うことができる。この差は大きく、中国の優位性を形づくっている一因となっています。

こういった政治的特徴が技術開発において優位性を持つ、おもしろいケースだと見ています。

貿易摩擦が続けば、技術的発展が二分する可能性も

(写真=Wealth Lounge編集部)

━━この覇権争いによる貿易摩擦というのは、いつごろまで続くと予想されるのでしょうか。

さまざまな要因が絡み合うため予想しにくい面があります。仮にこの摩擦が長期化・激化するのであれば、デジタル分野における技術的な発達において、世界が二分されるのでは、という意見もあります。

きっかけは、ファーウェイのスマートフォンに、グーグルがAndroid OSを提供しないことを発表したことです。これに対し、中国は圧力に屈することなく独自のOSを開発する方針を発表しています。

なぜ中国がこれほど強気なのかというと、人口の多い国のため消費が保証されるということのほかに、2013年から習近平国家主席が進める「一帯一路」構想が関係しています。

一帯一路は、中国西部-中央アジア-欧州を結ぶ「シルクロード経済ベルト(一帯)」、中国沿岸-東南アジア・アフリカなどをつなぐ「21世紀海上シルクロード(一路)」において、中国主導で大規模な経済圏を創りあげようという構想です。

すでに中国を中心に設立されたアジアインフラ投資銀行により、圏内の新興国に経済支援をおこなうなど、すこしずつ経済圏の構成が進んでいます。

デジタル技術において、ソフトウェアはOSを中心に開発されます。中国が開発した新OSが一帯一路の経済圏において主導権を握れば、中国の新OSを中心とした技術発展グループ、AndroidやAppleのiOSなどを中心とした発展グループと、デジタル分野における勢力圏が二分するかもしれません。

━━このような事態になった場合、日本にはどのような影響があると考えられるでしょうか。

単純にOSの使用が二分されると考えれば、そんなに大きな影響がないように感じるかもしれません。しかし、デジタルからリアル、つまり実態経済に影響がでることは否めないでしょう。

たとえば日本の企業である東京エレクトロンは、アメリカの発表したブラックリスト掲載の中国企業との取引停止を決定するといった対策をとらざるを得なくなっています。こうした動きは今後も活発になる見通しですが、G20サミット後の動きは不透明です。

東京株式市場においても、このアメリカの発表あとに半導体を中心とする中国と関連深い銘柄に関しては急落したという報道もありました。

日本から中国への輸出を中心にしている企業が苦しい状況に陥っていく、また、B to Cで中国でのビジネスを展開している企業も撤退を余儀なくされる。こういった流れが顕著になっていく可能性がいまだに高いことが現在の状況から予想されます。

それこそ米ソ時代の関係のように、経済以外にも、学術分野においても米中で二分するなど、貿易摩擦の影響がどこまで波及するかというのは、これからの両国の対応次第となります。

オリンピックによる内需は拡大、輸出入関連の外需は衰退傾向

(写真=Wealth Lounge編集部)

━━このような、経済的に先行き不透明なマイナス材料と同時に、2020年には東京オリンピック開催というプラス材料が控えています。2019年から2020年にかけて日本はどのような経済状況になることが予想されるでしょうか。

悲観的なシナリオとしては、消費増税に始まり、19年後半に米中の貿易摩擦が深まり、さきほどお話ししたように、日本企業がファーウェイ以外の中国企業との取引も停止せざるを得ない状況に陥ることもあるかもしれません。

半導体の出荷台数や、そのほか製品の中国向け輸出量が大幅に落ちることで、国内の製造業・輸出産業は非常に苦しくなる、ということが予想されます。

また、所得層が低い人たちに対する補助金や優遇政策なども、オリンピック前に終了する予定になっています。これらの期限を政府が延長するか、打ち切るかは不明ですが、こちらもプラスにとらえることはできない要素です。

オリンピックを開催した国は開催後、不景気になった国もあります。日本の場合は公共工事の反動により、深刻な不況に陥るのではとの懸念もよく挙がっていますね。こういった条件がそろうことで、景気の低迷を招くというのが、一番悪い未来でしょう。

明るい要素としては、オリンピック開催国の通例として開催後の訪日外国人の数は増加する見込みです。そのため、インバウンドに関しては需要が見込めるために、この分野においては活況になるのではと考えています。

ただ、現実的に起こる可能性は低いですが、米中貿易摩擦の悪化により、中国人観光客の日本への渡航制限というリスクもあります。訪日外国人のうち、中国からの観光客が一番多いというのはご存じだと思います。日本はアメリカ寄りの政策をとるため、可能性がゼロとは言い切れません。

貿易摩擦による製造・輸出業の衰退、消費増税による消費活動の縮小、訪日中国人の激減によるインバウンドの縮小、この3つがそろうことが最悪のシナリオです。

いずれにしろ、現在の米中関係が19年後半にどのような結果となるかを静観するしかない、というのが正直なところです。

━━こういった状況で、投資家や資産家はどのような姿勢でマーケットと向き合えばいいのでしょうか。

私がトレーダーの方に取材する中で、中国への依存度が高い企業への投資姿勢を慎重化しているというような考え方を耳にしますね。一方で、内需に目を向けて、可能性のある企業に投資を続けるという意見も多いように感じます。

もう1つ挙げるとするならば、金や仮想通貨への投資です。おそらく、富裕層の大多数の方は資産を増やすというよりも「資産を守る」という方向に興味があるかと思います。

多くの方が資産を分散してリスクを低減させることを希望しているでしょう。その際、やはり今回の米中の貿易摩擦はかなり大きなリスクとしてとらえられます。

もちろん、資産運用は株や既存の債券がベースになることが多いと思いますが、一部の資産を利用者が多く国境の関係のないものに分散投資するのは、現在の状況下では選択肢のひとつになるのではないでしょうか。


※本稿は仮想通貨や金の投資などを推奨するものではありません。投資判断は個人の責任によって行うようお願いいたします。

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