2019.10.3
インタビュー

吉田修平弁護士に聞く  2020年4月よりスタート「民法(債権法)改正」のポイント

(写真=Wealth Lounge編集部)
(写真=Wealth Lounge編集部)
2020年4月より、民法制定以来の大改正が実施されます。これによって不動産売買・賃貸借の実務はどのように変わるのでしょうか? そのポイントを日本不動産学会や資産評価政策学会にて理事を務められる吉田修平弁護士にお聞きします。

大改正は日本の民法をワールドスタンダードに変える

━━今回の債権法改正は、各種メディアでも大きく取り扱われています。なぜこれだけ注目されるのでしょうか。

まず、1986年に民法が制定されて以来の大改正であるということです。

そもそも日本の民法は、明治時代にボアソナード氏というフランスの民法学者を日本に招いて制定されました。

そのため、フランスやドイツといったヨーロッパの法律体系である大陸法を基に、日本独自の変更を少し加えているという特徴があります。

そしてこの大陸法に対し、世界にはもう1つ大きな法律体系が存在します。それが英米法です。

こちらはイギリスで作られ、アメリカや諸外国で使用されている法体系で、力のある国が採用していることで、たとえば国際的な売買においては英米法が世界の共通ルールとして用いられることが多くなっています。

今回の大改正では、大陸法を基調とする日本の民法を、ワールドスタンダードである英米法に寄せるかたちに直さなければ世界での取引に遅れをとる。そういった考えで、抜本的に改正を行うという背景があると考えられます。

瑕疵担保責任は契約不適合責任へ改正

━━大改正において、賃貸借契約や不動産売買における大切なポイントはあるでしょうか。

賃貸借契約に関しては、これまで積み重ねてきた判例や条文などで個別対応していたものが明文化されることになるため、実務的な部分に大きな変更はない、と見ていいでしょう。

売買においては、「危険負担」と「瑕疵担保責任」の改正については知っておいていただいたほうがいいと思います。

危険負担とは、不動産のような「特定物」について売買契約が成立した後、引渡しまでの間に売主の責を負わない事由によって引渡しが出来なくなった場合に、目的物の引渡債務が消滅することに応じて、買主の代金支払い義務が消滅するか否かの問題です。民法上はその債務の債権者である買主が責を負うことになり、売買の代金債務は消滅しません。

しかし、目的物を取得できないのに買主が代金支払義務を負うのは不公平との意見も多く、限定的に考えるべきとの説も有力です。そのため、不動産実務上、特約で売主の負担とするのが通例です。

危険負担に関しては、これまで、全国の約8割の不動産会社が所属する全宅連(全国宅地建物取引業協会連合会)が民法に世界標準に合わせた特約を加えて使用していました。今回の改正ではこの内容に合わせて民法を改正するため、賃貸借契約と同じように、実務上、大きな影響はありません。

しかし、瑕疵担保責任については大きく変わり、債務不履行になるものとされました。

これまでの瑕疵担保責任では、特定物ドグマと呼ばれるのですが、世界に1つしかないもの(不代替物)については、その物を売り渡す契約をしてその物を売り渡せば、それで売買は成立し、債務不履行ではないとされています。

不動産の売買に照らし合わせてみると、現在は住宅メーカーがプレハブのように、同じような家をいくつも造ることができるようになりました。しかし大工さんが建物を1つずつ手で作っていた時代には、まったく同じ家というのは存在しませんでした。

まして中古住宅であれば経年劣化が発生したりするので、まったく同じ条件の家というのは2つとないでしょう。

こういった世界に1つしかない不動産を購入して実際に居住してみたら、床下にシロアリが発生していた、普段の雨では分からなかった部分から台風になって水漏れを確認したなど、不具合が後から発見された際、現在の瑕疵担保責任では債務不履行にはあたらないので、法律を根拠として売主に修繕をお願いすることができませんでした。

しかし、実際に問題が起きているのですから、買主から見ればこれは非常に不公平です。このような場合には、法律が、特別の損害賠償や契約解除を認めています。これを法定責任説と呼びます。

法律が損害賠償などを認めてはいるものの、諸外国から見れば、そもそも不具合がある不動産を売却したのになぜ売主の債務不履行にあたらないのか、実状に合っていない法律ではないか、との見方がありました。

そこで改正法では、買主が購入した後に発見した不具合に関しても債務不履行責任であるとして、買主から売主へ修繕や代替物の引渡し、不足分の引渡しを求める“履行の追完”を認めるよう改正されます。これが、履行されたものが契約に適合するか否かを考えるという、新しい契約不適合責任です。

契約不適合責任の中では、前述の追完請求権のほか、修繕や代替物では不十分である際の代金減額を主張する代金減額請求権、損害賠償や契約の解除を求める権利も認められています。

クラシックカーにたとえれば、契約不適合責任はわかりやすい

(写真=Wealth Lounge編集部)
━━大改正後に、売主はどのような部分に気をつけるべきでしょうか。

売主の方が「買主に追完請求を受けたらどうしよう……」と、いたずらに心配する必要はありません。契約不適合責任は、あくまで契約内容から見て不足などがある場合に問題となる部分です。

これまでよりも、契約の目的を明確にし、諸条件を明記した契約書を用意すれば、ほとんどの場合問題ないでしょう。

このトピックについて話すとき、私がよく例にあげるのはクラシックカーです。古い車種の中にはコレクターズアイテムとして人気も価格も高いものが存在しますね。たとえば、このクラシックカーを売買した時に、エンジンがかからなかったとします。

さきほどの契約不適合責任で考えると、走るための車を買ったのであれば車が走らないのですから追完請求を受けるかもしれません。しかもクラシックカーであるため、パーツなどが手に入らないかもしれません。また、代替物といっても珍しい車種であれば同じような車が手に入らないかもしれません。これでは契約解除、もしくは損害賠償を求められる可能性も出てきます。

しかし、そもそも買主のクラシックカーの用途が、展示物やインテリアとして使用する、という場合はどうでしょうか。

この時に重視されるのは、動く・動かないではなく、外観に傷があるか、外から見える部分にオリジナルのパーツがそろっているか、などです。そのため、たとえエンジンが動かなくても契約不適合にはなりません。

民法改正後は、こういった契約の目的を売買契約時に明確に合意することが大切です。できれば契約書という形で書面にしておくべきです。そうすれば、たとえ動かない車の売買であっても、当事者同士の合意を前提にして、後日、問題の生じない契約を結ぶことができます。

不動産に関しても同じです。近年、古民家の売買もさかんに行われますが、買主の契約の目的が、居住することではなく「古民家を構成する部材を使用したい」「囲炉裏を移築したい」などの目的であれば、「雨漏りがする」などの不具合があっても問題が生じないことになります。

しかし、この古民家に「住みたい」という目的で契約していれば、雨漏りは契約内容に不適合であるために追完請求が認められる可能性が高くなります。雨漏りがあるなら、買主に先に開示しておくべきです。そうすることで、居住に使用したい人との認識のずれが生じず、多くの場合は、後日に問題が生じないような売買が結べるはずです。

ほかにも、不動産の場合は使用の時期も大切になります。一例としては、中古物件を購入して東京オリンピックまでに改修し、ホテルや喫茶店として使用したい、などといった目的を明確に契約書に記載している場合、物件の引渡しがオリンピック開催までに改修完了を見込めないとなった場合、このような場合も契約不適合と認められる可能性があります。

賃貸借契約では特約として合意しなければいけないことが増加

(写真=Wealth Lounge編集部)
━━不動産オーナーが賃借人と賃貸借契約を結ぶ際は、どの程度まで書面に記載するべきだと考えられますか。

賃貸借契約であれば、修繕についての特約の記載を行ったほうがいいでしょう。

債権法の規定の多くは任意規定です。法律には任意規定と強行規定というものがあり、前者は、特約といって当事者同士が合意していれば、民法上の内容と違う契約内容を結んでもいいとされています。つまり、特約が任意規定に優先します。逆に、後者は、民法の規定と契約の内容が違う場合、たとえ当事者同士が合意した内容であったとしても、法律が優先されます。

賃貸借では、修繕や原状回復について改正がありますが、これらは任意規定のため、特約として当事者同士で改正後の民法と異なる内容を定めても構いません。修繕と原状回復について、よりくわしく解説していきましょう。

修繕については、修繕権というものが賃借人に認められるようになります。たとえば不動産に水漏れがあるといった場合、改正前には、賃貸人が修繕をする義務の規定だけがあり、賃借人には修繕の権利はありませんでした。

そのため、賃借人が勝手に修繕をすれば契約を解除されることもありました。しかし、改正後は、賃借人が修繕を行う権利が認められます。ただ、この修繕権は、特約として賃貸人と賃借人が合意すれば変更することができるのです。

たとえば、賃借人が修繕をしたいときは、あらかじめ大家に修繕計画を提出し同意を得なければいけないと定め、契約時に合意しておけば、勝手に修繕をされてしまうということもなくなります。

ほかにも修繕には、建替えに近いような「大修繕」、雨漏りなどを直す「中修繕」、障子の張替えや電球の交換といった「小修繕」という種類があります。従来、小修繕に関してはいちいち大家さんが対応するのは手間がかかるため、賃借人が勝手に修繕できるよう特約を結んでおくことが通例でした。

しかし、改正後の修繕については、この部分を特約で定めておかないと、中修繕についても賃借人が実施できるということになります。具体例を挙げれば、窓から風が吹き込んでくるので、従来木枠だったものをアルミサッシに賃借人の独断で変更し、その交換費用を大家に請求するなど、賃貸人の不利益になるようなトラブルも発生するかもしれません。

そのため、修繕計画に内容や範囲、金額なども明記した上で賃貸人の承諾がなければ修繕してはいけない、といった特約を結ぶ必要も出てくるでしょう。

原状回復について従来の民法では、借りたものを借りたときの状態で返さなければいけないと定められていました。ただし、頻発する敷金などをめぐるトラブルに対して国土交通省が定めた「原状回復のトラブルとガイドライン」を基に、経年変化による通常損耗に関しては賃借人には原状回復をしなければならないという義務がない、という運用方法が続けられています。

改正後の民法では、このガイドラインなどの内容を加味した内容に改正されます。

しかし、例外があります。明確に合意されている特約により、経年変化による通常損耗なども賃借人の負担とすることも可能です。たとえば、企業同士が都心の一等地のオフィスビルで貸し借りを行う場合、退去時には新築と同じ仕様にして返却する、という特約を定めることも有効です。このような特約を有効と認めた、高等裁判所の判例があります。

このような背景を考えると、賃貸人は特約を細かく決めておいたほうが有利になるでしょう。たとえばハウスクリーニングの実施を特約として明記しておくことも問題ありません。

ただ、住居の場合、一般の消費者が賃借人であった場合は最高裁の判例や国交省のガイドラインに照らし合わせて、特約の合意が否定される可能性もあります。顧問弁護士などもいる企業と個人では、情報の量や知識に格差があるため、情報の非対称があるとされる可能性があるためです。

このため、個人との契約書にこういった特約を明記する場合は、慎重に行わなければなりません。

━━お話をうかがっていると、改正後は、個人や法律の知識の乏しい企業主導で契約を進めるというのは難しい気がしてきました。

そういった場合がほとんどだと思います。たとえば、アメリカで契約をする場合には弁護士が同席するケースが多い、というのは皆さんご存じだと思います。これは、後で不利益を被らないためです。日本も英米法に合わせた改正をするために、今後弁護士を利用する機会というのは格段に多くなるでしょう。

今回お話しした改正後のポイントは、実のところほんの一部です。

不動産売買に関しては、まずは売買実務の経験が豊富な不動産会社や専門家に相談をして、買主・売主の目的を明確にする。賃貸借契約であれば、特約を活用して的確な内容を明記する。こうした対策が肝心です。

契約において、後で不利益を被らないよう、より身近に弁護士などの専門家を置いたり、専門的な知識を有している会社などを活用していただければと思います。

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