2020.4.1
インタビュー

話題の著者・亀井卓也さんに聞く  5Gビジネスの期待とリスク

IT系ビジネス書のベストセラー『5Gビジネス』の著者・亀井卓也さん(野村総合研究所)に、5Gが普及することでなにが変わるのか、今後の国内展開について、世界での5G普及などをテーマにお話を伺います。

5Gが変えるのは通信そのものではなく社会

━━5Gの実用化が間近に迫り、新聞紙面やニュースなどで話題に上がる機会が増えてきました。ただ、5G といわれても漠然としたイメージしか浮かばない人が多いと思います。5Gの本質は何でしょうか。

5Gとは「第五世代移動通信システム」のことです。一般的な5Gに対するイメージは、
スマートフォンなどのデバイスで動画などデータ量の多いサービスをより早く利用できるようになるというものではないでしょうか。

しかしそもそも5Gとは、非連続な技術革新の結果生まれた、全く新しい通信技術というものではないのです。5Gとは、通信規格を策定する団体が定めた、「高速大容量通信」「多数同時接続」「超信頼・低遅延通信」というビジョンに基づいた規格群で、2019年以降に少しずつ広まりながら、少しずつ機能向上していくものなんですね。

つまり、5Gというのは今後時間をかけて浸透し、進化し続けていくというもので、その意味では「2020年に5Gに変わる」というよりは、「2020年代をかけて、5G時代になっていく」と捉えるべきでしょう。。

━━5Gの本質がよく理解できました。現在主流の4Gと5Gの違いも気になるところです。

4Gにおいても、さきほど挙げた3要素「高速大容量通信」「多数同時接続」「超信頼・低遅延通信」において、一般の利用者が不便に感じる部分はほとんどないと思います。

たとえば、多数の人が集まる隅田川の花火大会で通信ができなくなる、あるいは年始直後に全国の人が一斉にメールを送ることで通信障害が発生したといった、以前にあったようなトラブルはほとんど聞かなくなりましたよね。つまり、4Gでも一般利用レベルに必要な水準にほぼ達しているということになります。

それにも関わらず、なぜ5Gが発表されたのかというと、通信業界があらたな通信技術によって、社会全体を変えたいという意志を持っているからです。

3要素のひとつ「高速大容量通信」においては、複雑で重いデータを迅速にやりとりできるようにする。2つ目の要素「多数同時接続」では、基地局に接続できるデバイスの総数を100倍にし、より多くのセンサーを街中にちりばめ、人々の生活からこれまでとは比べものにならないほど多くのデータを蓄積していく。そして、「超信頼・低遅延通信」では、車やロボットなどに通信を組み込み、多数同時接続で集めたデータを高速大容量通信で瞬時に現実世界にフィードバックできるようにする。

こうしてより利便性が高く、ネットワークに柔軟性を持つ社会を実現することこそが、5G開発の根底にあります。

もちろん、同時に多数の人がスマートフォンで動画をダウンロードすることも可能になります。ただ、基地局に接続できるデバイスを100倍にしたところで、突然、都市部のあるエリアに住む人が、1,000人から100,000人になることはありませんよね。

つまり、通信業界が想定しているのは、人が100倍増えることではなく、ネットワークに接続する機器が100倍増える未来です。

5Gが普及することで通信が劇的に変わる、というよりも、5Gが普及することでさまざまな機器がネットワークにつながり、そこで得た多種多様なデータが社会を変える、という考え方が正しい理解です。

このあたりは著書(『5Gビジネス』)にくわしく記していますので、こちらも参考にしてください。

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5Gは4Gよりもゆるやかに普及していく


━━5Gは、社会全体を対象にした技術なのですね。今後、日本でどれくらいのペースで広まりを見せていくのでしょうか。

コンシューマー向けの5Gの普及には、「利用可能エリアの拡大」と「利用可能端末の普及」という2つの要素が必要です。

まず、ひとつ目の要素「利用可能エリア」については、2020年3月にコンシューマー向けの商用サービスが開始される予定です。当初は都市部での小規模なエリアからスタートしますが、通信各社が総務省に提出している計画では5年で日本の国土の50%以上のエリアをカバーすると記されています。

日本国内では、人の住んでいない土地も多数あるため、国土の30%程度をカバーすれば9割以上の人口をカバーすることが可能です。そのため2~3年以内にほとんどの国民に5Gの通信システムが提供されることになるでしょう。

一方、5Gに対応したスマートフォンなど「利用可能端末の普及」にはもう少し期間がかかると予測されます。これは、4Gの利用開始時のことを参考にするとわかりやすいです。4Gの対応端末の割合は、商用サービスの利用開始から3年後で約5割、5年後で約7割でした。

ただ、5G対応端末の普及はこれよりも遅いペースになると私は見ています。なぜなら、現在のスマートフォンは比較的高価格で、買い換えに3年以上かける人も少なくありません。そのため、5年で5割強程度のスマートフォンが5G対応端末になっているだろうと推測しています。

━━産業向け5Gはどのように普及するでしょうか。

現在でも、ケーブルテレビ会社などはマンションのすべての部屋にケーブルをつなげることができないので、建物の近くに機器を設置し、4Gの方式で各家庭に映像データを送信しています。こういった使用方法であれば、経済合理性が成り立てば、すぐに機器を入れ換えて5G方式を使用することになるでしょう。

ただし、5Gが産業を牽引していく主役になるのではなく、あくまでも解決手段のひとつとして5G活用のアイデアが採用される、ということになるでしょう。

たとえば、工場や病院で働く人全員の動きを把握したい、工場機械などの動きを常にリアルタイムで監視して遠隔で操作したいなど、効率を高める目的で5Gを検討することはあると思います。しかし、大規模な設備の入れ替えを伴うことを考えると、5Gの利用が開始されて1~2年で工場や病院などの大半が活用するようになるとは考えにくいですね。

こういった流れを後押しするには、5Gを活用した優れたソリューションが生まれ、しかも安価に導入できるといった環境整備が必要そうです。現状ではまだこのような安価なサービスや機器は発表されていませんので、普及するのはもう少し先のことになるでしょう。

仮にこういったことが実現しても、設備投資に多額の費用をかけられない中小企業などで導入されるようになるには一定の期間を要するのではないでしょうか。

このような背景を逆手にとって5Gを積極的に取り入れる戦略もあり得ます。早めに5Gを活用して世界・国内・業界に先んじたポジションを獲得すれば新たなビジネスチャンスにつながる可能性が高いともいえます。

課題は今後の5G活用可能性の検討


━━グローバルの視点ではいかがでしょうか。5Gは日本だけではなく、世界規模で普及が推進されていると思います。現在先行している国はどこなのでしょうか。

韓国とアメリカは、日本よりも早く5Gの商用サービスの提供を開始している5G先行国です。

韓国では、特に5G対応スマートフォンの売れ行きが好調で、500万台程度が国内普及しているようです。またVRなど、さらなる活用方法に関わる周辺環境の開発も好調で5Gを活用したコンテンツに投資が流れこんでいます。また、工場などに5Gを組み込むなど法人需要への広がりも検討されており、今後の展開に期待がもてます。

アメリカではサービス提供タイミングは早かったものの、料金プランや対応エリアが整備しきれていないことなどが障壁となり、エリア・端末の普及ともに小規模で推移している印象です。

この二カ国以外にも、欧州ではエリクソンやノキアなどが積極的に法人向けのサービスを開発しています。

━━グローバルでは5Gが本格化しているのですね。

いえ、いずれも本格的に稼働しているかと聞かれればそうではありません。

韓国における500万台の端末普及は、ヘビーユーザーが積極的に購入した結果ではないかという見解もあり、今後より広がりを見せるためにはライトユーザーを取り込む新たなサービス提案が鍵になるでしょう。

アメリカについても、広い国土であるがゆえに、固定の光回線がまだ敷かれていないエリアもあることから、安定的なサービスの提供にはまだ課題があります。

こういった状況を見ると、韓国やアメリカでは早くから商用サービスの提供を開始していますが、状況的に日本が出遅れているというわけでもありません。日本が先行国に追いつくには、4Gの通信速度などで十分だと感じる人にも興味を持ってもらえるよう、5Gでも負担に感じない、あるいはわかりやすいメリットがあるような料金プランを提供していくような方針が必要でしょう。

また、さらなる大容量通信などが必要となるサービスが発表されることもポイントです。これらが実現しなければ、4Gと5Gが共存する状況がしばらく続いていくのかもしれません。

━━5Gを活用できる新たなサービスが生まれることで、大きなベネフィットを得ることができますね。一方で、リスクもあるのでしょうか。

活用方法によっては、プライバシーの確保に影響を及ぼすことも考えられます。5Gを通してこれまでよりも大量のデータが収集される中で、個人のすべての行動をAIが把握することもあり得ます。これにより、自分のことをAIがより深く知り過剰に提案をしてくる、もしくはこういったデータを別の人間に見られる、ということにもなりかねません。

ただし、これはリスクであってデメリットではありません。リスクをしっかり管理してコントロールすれば、より便利な社会を実現できるでしょう。だからこそ5Gを正しく理解して、各業界や個々の企業などが新たなサービス開発を推進することが大切です。特定の地域でトライアル的に実証するといった取り組みも必要となるため、国や自治体のバックアップもポイントになります。

国内企業が今後5Gを積極活用することで、世界的に活躍するプラットフォーマーと競争できるような展開も十分にあり得るでしょう。各業界や個々の企業の挑戦に期待したいですね。

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