2020.4.8
インタビュー

話題の著者・亀井卓也さんに聞く  5Gによって不動産ビジネスはどう変わるか

IT系ビジネス書のベストセラー『5Gビジネス』の著者・亀井卓也さん(野村総合研究所)に、5Gの普及・浸透によって不動産ビジネスは今後どのように変わるのか、どれくらいのスパンで5Gを活用する社会が実現されるのかをお聞きします。

5Gで不動産や街に新たな価値を付与する

━━5Gの商用サービス開始で、不動産業界にはどのような影響があるのでしょうか。

不動産に絞って考えるならば、5G(第五世代移動通信システム)の普及で、“ロケーション”に新たな価値を付与することができるようになるでしょう。

NTTドコモが2019年に資本・業務提携をおこなったMagic Leap,Inc.という企業があります。こちらはアメリカ発のベンチャー企業でMR(複合現実)デバイスというメガネ型の端末を通じてプレイできる、ゲームなどの開発をしている企業です。

MRでは、5Gの通信システムを活用することによって4GでトレンドだったAR以上のことができるようになります。具体的には、複数の人が同時に同じ情景を体感したり、自分自身が実際のフィールドを歩き回りながらバーチャルな対象物を見たり聞いたりすることができるようになるのです。

この5G で実現できる技術を活かすと、たとえばお寺ひとつとってもまったく別の価値が生まれます。利用者がMRデバイスを付けてお寺に入ると、昔そこで行われた合戦を間近で体感することができる、そんな仕組みが可能になるんですね。

私が冒頭で挙げた“ロケーション”とは、ここでいう“お寺で”の部分です。実際に合戦が行われたことのあるお寺におもむき、観光客がデバイスを借り、はるか昔の合戦を体感する。場合によっては、自分もデジタルの刀などを持って合戦に参加する。5Gでは多数のデバイスによって低遅延の同時通信を行えるため、自分が切った侍をほかの人の視点から見ることもできます。まるで実際の合戦に参加しているような、リアルな体験となるでしょう。

こういったことは、現在のVRで再現可能です。しかし、遅延などがあるために5Gのときほどの同時体感は難しいかもしれません。また、これが自宅から遠隔で体感できるとしたらどうでしょうか。一回の体験が2,000円~3,000円だったとして、自宅で当時の合戦をVRで見ることに支払いを行うでしょうか。おそらく、お金を支払ってでも体験してみたいのは現地でのMR体験だと思います。

自宅で大容量通信によってVRなどのサービスを楽しむ、ということは4Gの考え方です。5Gでは、これまで通信環境が整わなかったようなロケーションでも「高速大容量通信」「多数同時接続」「超信頼・低遅延通信」が行えるため、場所を選ばず多くの人が同時にエンターテインメントを楽しむことができるようになります。

どこでもできるからこそ、自宅からではなく特定の場所でサービスを提供する、ロケーションに紐付いたサービスが多くの人の興味を引くと私は考えます。

お寺を例に挙げましたが、これはほかの施設や不動産でも同じです。これまでエンターテイメント性のなかった場所にも新たな価値を付与することが可能になることは、デベロッパーの大きなメリットになるでしょう。

すでに現実世界でも、これまでになかったような新しい価値を不動産に付与することが行われていますが、さらに5Gを活用したサービスでプラスアルファの価値を創造することができます。

5Gの活用によって、もっと広く街全体を対象にしたサービスを提供することも可能です。一例では、歴史で有名な出来事があったけれど今では何も残っていない場所に、MRの技術で歴史的な事象の再現をおこなう。これにより、これまで魅力が少ないと思われていた場所に新たな価値が見出され、商業施設などを新設する可能性もありそうです。

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5Gは不動産オーナーにもベネフィットをもたらす


━━アパート・マンション・ビルを経営するオーナーや入居者の方が受ける5G普及のメリットや影響はあるでしょうか?

5Gの普及によって、現在も行われているような、入居検討をしているお客様が現地におもむかなくてもVRで内見ができるようなサービスはより一層普及するでしょう。リアルの世界では、入居検討者が遠方の物件を内見するには、費用も時間も必要になります。VR内見のサービスが普及することで、入居検討者がより広いエリアで物件を手軽に探すことができるようになるほか、オーナー側もより広いエリアを対象に物件リサーチがしやすくなります。

ほかの例としては、すぐには難しいかもしれませんが、サテライトオフィス機能を導入するマンションの販売が行われるようになるのでは、と考えています。

たとえば、3LDKの1室を5Gに対応させ、その部屋の中でVRデバイスを装着すると出勤扱いになるといった仕組みです。こういったことが可能になれば、これまでよりも多様な勤務形態の整備が行われるでしょう。これにより、ハウスメーカーから不動産オーナーに対して在宅ワークしやすい物件の提案が増えていくように思います。需要と供給がかみ合えば、物件の価値が大きく向上します。

また、既存マンションの共用スペースの位置づけも変わる可能性があります。距離の離れた物件の共用スペースにそれぞれ人が集まり、5Gを活用して一体感のあるイベントを開催することも可能です。そのマンションの共用スペースでしか行われない5Gを活用したイベントがあれば、大きな差別化につながります。

マンションの専有スペースでも5G活用は可能ですが、既存物件の場合はすでに住人が住んでいるので新しいシステムを短期間で導入するのは難しい面もあります。共用スペースはオーナーが承認すれば導入が比較的スムーズなので専有スペースよりも先に変化が起こりやすいかもしれませんね。

ここで挙げたいくつかの施策も、冒頭で挙げたお寺の例と本質は同じです。これまで存在しなかった価値を後から付け加えられる、これは5Gならではのメリットです。

━━著書では、5Gによりセキュリティが向上することも記述されていました。不動産にも活用されるでしょうか。

もちろんです。そもそも、日本では人を使ってセキュリティを向上するよりも、カメラなどの機器を使用して防犯性能をアップさせることが積極的に行われています。

一例を挙げると、東京マラソンなどではすでに通信がセキュリティ対策におおいに活用されています。くわしくは著書に記してありますが、警備員に持たせたウェアラブルカメラや会場各所に設置したカメラを通してAIが情報を解析し、不審な動きをする人間を特定するなど、人のカバーできない部分をより円滑に実施するための機能が導入されています。

5Gでは、これまでよりも基地局に接続できる機器の数を100倍にすることができるので、物件により多くのカメラやセンサー機器を設置できるようになるでしょう。そうなれば、イベント時だけではなく、平日の街中であっても24時間の詳細な警備が可能になるため、セキュリティ機能は必然的に向上します。

また一般的なレジデンスだけではなく、商業施設などではセキュリティ向上のみならず、これまでよりも多様な情報が蓄積できるようになるため、施設に入ったお客様が最初に入店したのはどのテナントか、どのような属性のお客様がどのような動線で来店するかなど、マーケティングに活用することもできるようになります。

5Gによって施設内のエレベーター管理の概念も変わる


━━5Gの普及によりネットワークに接続できる機器が増えると、マンションのエレベーターなどの設備の維持方法も変わるのでしょうか。

5Gのシステムが導入されれば、大きく変わる可能性があります。たとえば、橋梁にセンサーを組み込んだスマート橋梁というものがすでに稼働しています。これは車が橋梁を渡った際に発生する振動を感知して、何台の車両が通過したかの記録を行えるものです。橋梁は規模により、おおむね何台の車が通過したらメンテナンスが必要かわかっているため、データをもとに整備が必要な時期や期間をあらかじめ算出できるようになりました。

同じように、センサーを組み込んだ5Gエレベーターでは実際の利用者の数や施設の稼働にかかわる振動などのトラブルの予兆を監視して、トラブルが起きてからメンテナンスを行う対応型から予防型のメンテナンスへ転換することができるようになります。これにより、ランニングコストの効率化も可能になるでしょう。

さらに発想を広げると、予防型メンテナンスのエレベーターが誕生すれば、エレベーター設置の初期費用を無料にし、利用者人数ごとの従量課金制とする新たなプランが発表されるかもしれません。

これまでよりも正確にデータを把握できる5Gの世界では、既存のビジネスモデルを新たに発展させる伸び代が大きくなります。

━━5Gの普及により新たなビジネスモデルが生まれることで、不動産関連業界やオーナーに大きなメリットがあるのですね。最後に、さきほどお話されたような新しいビジネスモデルはいつごろから実用化されると予想できるでしょうか。

「5Gが利用できるようになる」という意味では、今後2~3年で人口の9割程度のカバーが達成されると予測しています。
 
一方、5Gを活用したビジネスモデルの確立にはもう少し時間がかかるでしょう。さきほどのエレベーターの例でいうと、対応型から予防型になることで維持・管理に必要な人数が大きく変わりますよね。合わせて、業務内容や収益にかかわる根底も大きく変わることで、企業側が社内のリソースのデジタルトランスフォーメーション(※)へいかに踏み切れるかが重要です。

※スウェーデンのエリック・ストルターマン教授が提唱したICTの浸透が生活をあらゆる面でよりよい方向に変化させるという考え方

より大きな利益を生むことがわかれば早い転換が行われるかもしれませんが、現状ではまだ読みづらい部分です。

ただし、たとえば不動産オーナーや入居者といったユーザー側から企業のデジタルトランスフォーメーションを促すような要望が多数寄せられれば、より早い動きも見られるでしょう。

マンションにエレベーターを設置する際に、メーカー側に上記のような従量課金制の問い合わせをする、メンテナンスに5Gを活用したセンサーを組み込むことを提案するなど、企業側が対応・検討せざるを得なくなれば一気に変化が加速します。そのためにも、不動産オーナーや入居者の不動産、デジタル、ビジネスなどに対するリテラシーが高まることが期待されます。

テクノロジーやビジネスのトレンドにおいて、5Gはこれから注目度が上がる技術です。この通信を使って発展する新たなビジネスモデルをいち早く知り、導入をメーカーや企業から提案されるだけではなく、利用者側からも変化を促していく。このような流れが実現すれば、日本の「通信を活用した社会」がより一層の発展を遂げられるのだと思います。

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