2019.10.11
ライフスタイル

ニューヨーク「ジェントリフィケーション」の象徴「ハドソンヤード」とはどんなところ?

(写真=haeryung stock images/Shutterstock.com)
(写真=haeryung stock images/Shutterstock.com)
ジェントリフィケーション(gentrification)とは、都市内部の高級化再開発のこと。近年、世界の大都市では盛んにジェントリフィケーションが行われています。その一つの象徴が、いま進んでいるニューヨークの最大規模の再開発「ハドソンヤード」(Hudson Yards)です。ここは今年の4月にプレオープンしました。すべて完成するのは2024年とされていますが、いったいどんなところなのでしょうか?

マンハッタンの新名所となった「ザ・ベッセル」

2015年、ニューヨークの地下鉄(MTA)に、26年ぶりの新駅となる「34ストリート・ハドソンヤード」駅(34th Street Hudson Yards)が誕生しました。2007年から総工費 24億ドルかけてつくられたもので、駅を出てすぐのところにある国際展示場「ジャビッツ・コンベンションセンター」 (Jacob K. Javits Convention Center) へのアクセスが断然よくなりました。

ジャビッツ・コンベンションセンターといえば、毎年11月に「アニメ・ニューヨーク」が開催されるので、日本でもなじみがあるかもしれません。世界中から、例えば「セーラームーン」などのコスプレをまとったアニメファンがたくさん訪れます。

しかし、2019年4月からは、人の流れが変わりました。ジャビッツ・コンベンションセンターよりも、プレオープンしたハドソンヤードに向かう人が圧倒的に多くなったのです。ハドソンヤードに向かう階段を上がって、すぐに目につくのが「The Vessel」(ザ・ベッセル)という奇妙な形をした建築物です。

ザ・ベッセルは、階段と踊り場のみで構成されていて、ビルにすると7階建ての高さ。階段でトップまで上がることができます。階段の入り口には行列ができていますが、整理券を受け取って待てば、30分ほどで順番が来ます。イギリス人デザイナートーマス・ヘザーウィックが手がけたもので、芸術作品なのか、モニュメントなのか、展望台なのか、なんとでも言える建築物です。

トップに上がってみると、マンハッタンの東を流れるハドソン川と対岸のニュージャージーが一望できます。上がってみて実感するのは、ここがハドソンヤードの中心で、ハドソンヤードのシンボルだということです。マンハッタンの新名所の誕生と言っていいでしょう。実は地下鉄の新駅も、ハドソンヤードのためにつくられたものです。

日本企業も参加しているビッグプロジェクト

ハドソンヤードは、マンハッタンの28~43丁目、8~12番街にわたる広大なエリアです。33丁目のハドソン川沿いのところにはもともと地下鉄の車両基地があり、ここを中心に、2012年から再開発が行われています。

再開発計画は、フェーズ1とフェーズ2に分かれ、完成予定は2024年です。オフィスビル、ショッピングモール、高級コンドミニアム、高級ホテルなど16の高層ビルが建設され、公園、学校、文化施設、娯楽施設もつくられます。これらの高層ビルには、コーチ本社、ロレアルアメリカ、SAP、KKR、ボストンコンサルティング、タイムワーナー本社などの有名企業が入居することになっています。

ニューヨークでは21世紀に入るまで、20年以上にわたって、大規模な再開発は行なわれてきませんでした。そのため、オフィスビルを含めたさまざまな施設の老朽化が進みました。ハドソンヤードは、この遅れを一気に挽回してしまうビッグプロジェクトで、世界の中心地としてのニューヨークの復権を狙ったものです。すべて完成すれば、まったく新しい街が誕生します。

日本人にとってうれしいのは、この再開発に日本企業が参加していることです。すでに、三井不動産は2018年10月に、51階建てのオフィスビル「55ハドソンヤード」を完成させています。さらにもう1棟、「55ハドソンヤード」の2倍の規模の「50ハドソンヤード」を、現在、建設中です。

AIが管理する21世紀のスマートシティ

ハドソンヤードが画期的なのは、従来の再開発と異なり、オフィスが中心ではないということです。従来のオフィス中心の再開発だと、日曜日や休日などは人が少なくなります。そこで、コンセプトとして「時間に限らず人が集い、交わる場所」を掲げました。

そのため、公園、街路、ビル、施設などの境界線が曖昧です。また、いくつかのビルは多目的使用になっています。つまり「職・住」(働く、住む)はもとより、「遊・交」(遊ぶ、交流する)も近接(クロスオーバー)しているのです。

さらに、ハドソンヤードは、いま世界中で計画されている「スマートシティ」でもあります。5G時代にふさわしく、すべての施設からビッグデータが集められ、AIが管理することになります。

ニューヨーク大学が開発に参加しており、街の空気の状況、クルマや人の通行パターン、電力などのエネルギーの生産と消費量がモニタリングされます。また、モバイルアプリなどで、オフィスで働く人や住民の健康状態、運動状況などもモニタリングされます。

こうして集められたビッグデータを活用することにより、人々がより快適な生活ができるように、街の状況は日々改善されていくようになっています。

ザ・ショップス&レストランズとザ・シェッド

現在、ハドソンヤードには、ザ・ベッセルのほかに、商業施設「The Shops & Restaurants」(ザ・ショップ&レストラン)、文化施設「The Shed」(ザ・シェッド)がオープンしています。

ザ・ショップ&レストランは、ザ・ベッセルの目の前にあり、高級デパートのニーマン・マーカスをはじめ、カルティエ、ルイ・ヴィトンなどの高級ブランドからH&M、Zaraなどのカジュアルブランド、日本の無印良品やユニクロも入っています。また、セフォラやM・A・Cなどのコスメショップも入っています。さらに、ニューヨークを代表するバーガーショップのShake Shack(シェイクシャック)やカフェのBlue Bottle Coffee(ブルーボトルコーヒー)、何軒かの高級レストランも入っています。

高級レストランの代表は、TAK Room(TAKルーム)とHudson Yards Grill(ハドソンヤードグリル)でしょう。TAKルームは、ミシュラン三つ星レストランPer Se(パ・セ)で有名なシェフ、トーマス・ケラーの店。ハドソンヤードグリルはコロンバスサークルのタイムワーナーセンター内の有名ステーキ店Porter House Bar & Grill(ポーターハウス・バー&グリル)のシェフ、マイケル・ロモナコの店です。

また、スペイン料理の有名シェフ、アンドレ兄弟によるMercado Little Spain(メルカド・リトル・スペイン)というカジュアルなフードコートもあります。

ザ・シェッドは、多目的なパフォーミングアーツ・ホールで、ザ・ベッセルと同じような奇妙な建築物です。巨大な風船で包まれた骨組みだけの格納庫のようなつくりで、8階建て。2階と4階がギャラリー、6階はシアターになっていて、最上階にはイベントスペースがあります。目玉は、半屋外の可動式のスペースで、ここはコンサートホールにもなります。ギャラリーの入場料は10ドルです。

ミレニアル世代向けの人気スポット

ハドソンヤードは、一部では「金持ちのための街」「富裕層の遊び場」と批判されています。ザ・シェッドの隣には、すでに竣工した地上88階建ての高級コンド「15ハドソンヤード」が建っていますが、その価格はニューヨークでも最高クラスです。

しかし、実際に訪れてみると、ザ・ベッセルやザ・シェッドのあるところは、「High Line」(ハイライン)の北端で、この空中プロムナードは、ニューヨーカーと観光客の人気の散歩道となっています。南端のチェルシーから歩いて行けば、ハドソンヤードに行き着き、近未来都市が出現します。

その光景は、富裕層の街というより、明らかにミレニアル世代(1989~1995年生まれ)の街といえます。ミレニアル世代が、今後のビジネス、経済、文化の担い手です。

これまで、ニューヨークの人気スポットと言えば、タイムズスクエアや5番街でした。しかし、数年後は、間違いなく、ハドソンヤードがニューヨークの最大の人気スポットになっていることでしょう。

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